In a SCAR / En este moment ディスクレビュー

 In a SCAR / En este moment

元PLASMA JETのJunichi Nakamuraがスペインに渡り、スペイン人のメンバーと始めたバンドの2017発表1stフル。自身の音楽ジャンルを「J-Rock」「J-Metal」と称して現地で活動中、アルバムは「せつなさ」に拘って制作された。アルバムの発売に際して来日公演も行っている。
トータル10曲(うち1曲はインスト)とコンパクトだがMetal、Death Metal、Visual系、Rock、J-Popと様々なジャンルの顔が見え隠れするアルバム。

ヴォーカルはスペイン人だが歌詞は基本的に日本語が多く、洋楽慣れしていない人でも聴きやすい印象。メロディーも90年代のヴィジュアル系を感じさせるもので、ある年代のリスナーにとっては懐かしさを感じるかもしれない。ヴォーカルの声質も日本語で歌われるときはヴィジュアル系っぽさがある。その一方で歌詞がスペイン語に変わると、途端に正統派のスペインメタルに様変わりするから面白い!歌われる言語によってアクセントや節回しが変わり、曲の印象が全くの別物にしている。

演奏はテクニカルなギターが随所に散りばめられており、耳が自然と音を追ってしまうが速さや激しさだけでなく、きちんとしたメロディーが奏でられている。勿論「せつなさ」を感じる叙情的なメロディー満載だ。
リズム隊はフレーズやグルーヴが洋楽的で、このことがバンドの個性となっており、メロディーは邦楽的で馴染み深いのにどこか新しさを感じる。洋楽のMetal CoreやHeavy Metal的なグルーヴで演奏をするバンドが日本にもいるが、細かいフレーズなどは海外のバンドらしさがある。そして忘れてはならないのが隠し味的に鳴っているシンセサイザーやキーボード。熱さ醸し出す他の楽器陣に対して冷やりとした音色、ストレートなピアノの音色が北欧の空気を感じさせて曲を叙情的に彩る。これもまた「せつなさ」を表現するのに一役買っている。

90年代前半にAlternative Rockというジャンルが認知されてきたが、このバンドもAlternativeなバンドである。各ジャンルのツボはちゃんと押さえてあるがその組み合わせとその妙が他のアーティストとは違う「異質感」を打ち出すことに成功している。

アルバムはスペイン語の語り「Desamor」から始まる。そのまま始まる「Kizu」は激しいブラストビートのイントロ、デスヴォイスが炸裂する。一瞬「Death Metalか?」と勘違いしそうになるが、サビに入ると予想を裏切るクリーンな日本語歌詞のヴォーカルに切り替わるこの曲はバンドの個性がわかる一曲でアルバムの幕開けとして掴みは上々だ。

続く「Arde Junto a Mi」「Flor Marchita」「Dos Labios」は最初から最後までクリーンなヴォーカルで歌われていて、Popな曲が続く。最初の曲のイメージからデスヴォイスが多用されるのかと予想していたが、アルバム全体では殆どの曲はクリーンに歌われていてデスヴォイスが登場するのは僅かなので、デスヴォイスが苦手な人でも十分楽しめる内容だ。寧ろ使われる場面が少ないからこそデスヴォイスが登場したときに曲のアグレッシブさが増し、リスナーが飽きないようなフックとなっている。

「Yo Mismo」はツーバスが印象的な激しいメタル曲。そしてバラードの「Arrepentimiento」はひたすら叙情的で泣きのメロディーをヴォーカルが熱唱。この曲は切なさよりも熱い魂を感じる。

ラストはブラストビートとデスヴォイスが炸裂するMelodic Death Metalな佳曲、と思いきやサビではクリーンでキャッチーに変化する「Muestra tu Bandera」。そしてエピローグ的なインスト「Amor」がアルバムを締め括る。

その後ボーナストラックとして「P.J.」が収録されているが、曲の出来としては本編にも勝るとも劣らない一曲。早弾き無しの丁寧なメロディーを刻んだギターソロが素晴らしい。

今の時代には珍しくコンパクトにまとめられたアルバムで、Junichi Nakamuraのセンス溢れるメロディーと流麗なギターワークが余すところなく詰め込まれている。
次作はこの路線を突き進むのか、逆にバラエティーに富むアルバムになるのか楽しみである。


En este momento (エン・エステ・モーメント)

そして現在制作中の2ndアルバムに収録予定曲のデモを聴かせてもらったがよりメロディアスになり、1stではエッジの立っていたギターのサウンドが少しソフトになっている。またこのデモに関して言えばテンポ以上の疾走感あるドラム(LUNA SEAのような疾走感)で、ライブでも盛り上がりそう曲だった。

2nd Album Demo Youtube

全容はリリースしてからのお楽しみだが、1stの方向性が好きな人であれば気に入ることまちがいないだろう。

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投稿者: 管理者

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