坂川美女丸 Interview Part 3
楽曲制作について
曲作りについてお聞きしますが、いつ頃からオリジナル曲を作り始めましたか?
オリジナルは中学の時から作っています。その頃はまだその当時好きなもののニュアンスがかなり出ていたけれど、大学生くらいになると今の楽曲のベースになるようなオリジナリティが出来てきたと思います。 高校生の時はライブではカバーしかやっていなくて、大学生になってカバー半分、オリジナル半分という割合でライブをしていたかな。初めてデモテープを作ったのも大学生のときで、5曲くらいオリジナル曲を録音しました。
1曲丸々作っていくのですか?
いえ、リフやコードパターン、歌メロならサビからとか、ポイントになるパートから作る事が多いです。こういったリフやコードのストックはパーツとしていくらでもあります。
例えばあの時閃いたものが後々あの曲になる!なんてこともあったのですか?
ストックはいくらでもあるけどそれを使い回すことはなかったです。ただここにこういったイメージのものがもうひとつ欲しいな,なんて思った時に過去のデータを聴き直してみる事はあります。
昔は記録するものを持ち歩ける時代じゃなかったから家の留守電に自分でメロディーを歌って吹き込んで記録していました。よく公衆電話から「イントロがこうで」など説明を入れてかけていたけど電話を使おうと後からやって来た人には「この人何してるんだろう」と不審に思われていたかもしれない。気がついたらとなりの電話機から不思議そうにこっちを見ていたり(笑)それで家に帰って留守電を聴くと何やってるかわからないこともしばしばで、吹き込んでいるときは頭の中で他にも色んな楽器が鳴っているからイメージがわかるけど、自分の下手な生歌だけだとその時のイメージが感じられない(苦笑)
今だとパソコンやスマホでどこでも手軽に録音出来るから、インスピレーションを記録に残すのが楽になりましたよね。そういえば「John Lennon」も「浮かんだメロディーをいかに忘れないかが勝負」と言っていますから忘れないための工夫は必要ですよね。
曲作りはこういったパーツからイメージを膨らませて一曲に仕上げていきます。上手く行かないときは少し寝かせてからまた取り組みます。
ギタリストとして
ギターサウンドやフレーズについて「Michael Schenker」や「Gary Moore」といった泣きのギターを得意とする人達の影を連想させられるのですが、どういった影響を受けてきましたか?個人的には「Blazing Dream(オムニバスアルバム『心のプロレス』収録)」のイントロを聴いたときに「Gary Mooreが好きなのかな?そうだとしたら好き過ぎて音に出ているな」と思わずニヤケテしまったのですが。
(自己分析して)自分の音はウェットだと思っています。今取り上げていたBlazing Dreamは自分のインスト曲で初めて世に出た曲ですね。
音については「こういうサウンドを出す」と思って出しているのではなく、これまで好きで聴いてきた音楽の影響が出てきているだけだと思います。そういう意味でイギリスやドイツといったヨーロピアン系の音が染み付いているんだと思う。そこにフレーバーとして和音階を取り入れた結果、今の自分の音があると思っています。
そしてここ10年くらいですが音質へのこだわりが強くなってきています。その目標として音色を聴いた人が「この音は美女丸だ」とわかるような音を作りたい。
以前氏神に「聴いていると『坂川美女丸のギターだ!』とわかるんだよね」と言われたけど、氏神にしかわからないんじゃまだまだだよね(笑)
いつも一緒にいる氏神だけじゃなくて世の中の人に気付いてもらわないと!
でもこの一言はとても嬉しかった。
今は理想の音が徐々に完成しつつある状態ですね。実はライブの後になるとどうやってこの音を出してるのかと機材を見に来る人が最近多くて嬉しかったりする(笑)「豊かなサスティーンがあるのに歪んでなくてクリーン、不思議な音だ…」って。それが同業だったりPAのスタッフだったりするので音のプロの方にも自分の求めている音が気に入ってもらえ、興味を持たれているわけですから「坂川美女丸の音」が出ているのだと思っています。
もちろん音と言うのは単にサウンドだけではなくて、フレージングやタイム感など演奏に関するものすべてなのですが。そう言えば昨年ぼくがサウンドプロデュースをしていたガールズバンドのライヴを観た人が、ギタリストがボクにそっくりなギターを弾くと言っていた事がありました。個人的なギターの生徒でもあったので、スタイルは確実に伝染しているようです(笑)
ギターや機材は何を使用されていますか?
ほぼアン直のセッティングでシングルコイルのESP製オーダーメイドのギターを使っています。ガラスの割れるような音を出すリアピックアップ、バイオリンのような音のフロントピックアップを搭載して欲しいと職人さんにお願いして作ったギターです。その音が出るように設計してもらったけど、だからといってそう簡単に出るようなギターじゃない。実際に自分がそれをイメージして弾かないとその音にならないんです。 そのイメージする音を出すためにピックの材質から弦から何から何まで選んできて、現時点でやっと8割ぐらいの完成まで来ています。
アンプはCORNFORD MK-50hというイギリス製のハンドメイドアンプを使っています。真空管もヴィンテージものに取り替えて自分好みにカスタマイズして。そこに人間椅子の和嶋慎治くんに作ってもらった「BIJON BOOST」を通して鳴らしています。
ハンドメイドのブースターなのですが、歪ませるというよりもそれを通す事によって得られる音のレンジがお気に入りなのでアンプの一部みたいな感覚で使っています。
歪み系のエフェクトをオフリミットした事によって、ギターのヴォリュームコントロールを4にしたり6.5にしたり8.5にしたりして色々な表情をつけられるようになった。これは特にインスト系の楽曲を演奏するときは大きいですね。
それからキャビ(スピーカー)。マーシャルのかなり古いキャビなんですが鳴りが全然違う。本体自体も現行のものより重く低音もしっかりとつぶれずに前に押し出してくれます。最終的な音の出口が重要なのはオーディオマニアの間では常識ですが、意外と楽器をやってる人には無頓着な人が多い様に感じます。
こうして音に対してシビアになっているせいか人の演奏でも音が悪いと拒否反応が出てしまいますね(笑)
例えばレスポールをマーシャルに繋げると7~8割のまあまあ良い音が出るんです。きっちりメンテナンスされていないリハスタやライヴ会場のレンタル機材でもね。ハムバッカー+マーシャルの王道の組み合わせですからそれは皆が想像する良い音と大きくハズした音にはならない。ストラトキャスターで同じ様な事をやるとかなり悲惨な音になる事が多いんですが。でも自分はそこからさらに上に行きたくてハムバッカーではなくあえてパワーの無いシングルコイルを選びました。
わかりやすい例で言うとDeep Purpleの「Made In Japan」で聴けるストラトキャスターとマーシャルの音。これに魅せられてからこれが理想の音のひとつなんです。あれはエンジニアだったMartin Birchの功績も大きく実際に会場で鳴っていた音と同じではないと思いますが、RitchieとMartin Birch二人で作ったサウンドを一人で作ってやる、みたいな(笑)
カブキロックスではルックス的にストラトキャスターだと地味なのでフライングVになったけど、ピックアップからコントローラーの位置まで基本中身はストラトキャスター仕様なんです。音的には(既存のギターの中では)ストラトキャスターが一番理想に近い音を出せるギターです。また「Brian May(Queen)」や「Gary Moore」のようにチョーキング一つで誰とわかる音を出す、そういうところに自分の価値を見出していますね。早弾きよりも最高の音色で心の琴線に触れるようなメロディーを弾きたい。常にそう思っています。 その自分にとっての理想の音を出してると思うのは「Uli Jon Roth(ex-Scorpions)」。「Scorpions」以降特にソロになってからの作品の音色が大好きなんです。そして美しい音色を出す一方で、パワフルでロックなシングルコイル特有の音が出てくるところも好き!ジャキっとした高域のキツ過ぎる音でなく、かといってブーミーではない。言葉で言うのは難しいのですが、艶やかで色気のある音が好きなんだと思います。
Classicを聴いていてもそうこういった音に惹かれますね。最近になってフルートの音が好きなことに気付きました。Rock系の人で言えば「Thijs Van Leer(ex-Focus)」のフルートの音も好き。無意識にそういう音に近づけようとしていることに最近気が付きました。
それでフルートの話をしたけど最近はRockよりClassicを聴く比率が大きいです。朝コーヒーを飲みながらメールとかチェックする時のBGMとして良く聴いています。Brucknerとかが最近のお気に入り。これも発見なのですがClassicは自分にとって空気のようで一つのベースになっているなと感じています。人の一生を一日に例えると子供の頃聴いたものの影響が一生残る様に、朝聴いた曲によって一日の気分が左右されたり。
こうして昔は気付かなかったことに気付いてからは自分からかなり手広く様々な音楽に関わるようになった。そして「何故だかわからないけど自分はこういう音楽が好きなんだ」と年齢を重ねるごとに分かるようになってきましたね。それも言葉では説明しづらいんですが、だから作っちゃおう、みたいな(笑)
ギターを弾くときに心掛けていることは?
先ずはメロディーありきだと思っています。そして曲のアレンジ感覚やバンドで合わせた時のバランス感覚を大切にしています。
このことについて自分のデビューがHeavy MetalやHard Rockバンドじゃなくて良かったかなと思っています。カブキロックスは歌をメインにしたバンドでボーカルがシャウトするようなバンドではないですからね。
例えば「Loudness」の高崎晃さんなんか凄いPopsのバランス感覚があるように思う。あの人は技術的に何でも弾ける上に、Loudnessに求められている「テクニカルなギターが曲のひとつのクライマックス」みたいなことを毎回心掛けてやっているように感じられます。でもそれがToo Muchになっていないんですよね。それは恐らくLazyの時にちゃんと楽曲とかボーカルとのバランス感覚を学んでいるから出来ることなんだと思います。
そういう意味では僕も歌メインのバンド、少なくともHeavy MetalやHard Rockバンドではなかったからバランス感覚をきっちり身に付けられることが出来たと思うし、そのことは良かったと思う。その一方で実はHeavy MetalやHard Rockバンドを望んでいたところが少なくともデビューした当時はあったかもしれないけど(笑)
実はHeavy Metalバンドでデビューして、ずっとHeavy Metalをやっている、そしておそらく聴くのもHeavy Metalオンリーの人のギターはつまらないと感じることがあるんです。やっぱり歌ものを経験しているかどうかで自分の引き出しの数が変わってくると思いますね。歌謡曲やポップスの世界にもいたことがあるかどうか、これが一つの違いが出てくる要因になると思う。
話を戻すと高崎さんはLoudnessの中で超早弾きやタッピングを沢山披露していますよね。でも時々物凄いキャッチーなメロディーを弾いたりと、速弾きなどのテクニック一辺倒で終わらないそのバランス感覚が素晴らしいなと思う。
そういうキャッチ―でメロディアスなプレイってアメリカ進出~「Mike Vescera(Obsession、ex-Yngwie malmsteen)」の時期が物凄く顕著ですよね。
そうですね。 やっぱり音楽家として狭い世界で出てきてそこで完結した人じゃないですからね、多分Lazyをやっていた当時は踊りながら弾いたりすることなんかも凄く不満だったと思うんですよね。
Lazy再結成後はやりたくないということで「赤頭巾ちゃんご用心」を封印されていますしね。
そうそうそう(笑) 僕もそういう本意じゃない嫌なこともあったけど、でもその経験が高崎さんのように血肉となって、「コレ」という一つのことしかやってこなかった人達と違うものがあると思いたい。 言い換えれば例えばギターソロひとつにしても「自分はこれだけ弾けるんだ!」というのを主張しにいくのか、「楽曲が良くなるようにソロを作るか」のアプローチの違いかな。 中には「歌はしょーもねーけど俺のギターは良いだろ?」ていうレベルの人だっている。もっと言えばアマチュアの人なんかで「曲や歌は大したことないけどギターは良いだろ?」て自慢する人もいる(笑)例えばギターソロだけが良くても曲全体として、もっと言えばバンドとしてダメだと思うんです。
なんかこうやって喋っていると自分にとってのHeav Metalって死ぬほど好きな部分と嫌悪してしまう部分の相反する要素の詰め合わせなのかな、って(笑) でも基本大好きですから、誤解の無い様に(笑)
発表されている曲で全体のバランスを取って良いメロディーを弾くことを実現できた曲は何ですか?
3rdアルバムに入っている「いつの日にか…」のギターソロは今でも好きですね。メロディーが歌っているような感じがしてあの時の自分の気持ちが込められていると思います。 2ndアルバムだと「千両役者」。ソロのメロディーを作ったときの苦労もあるけど、メジャーなコード進行の中でちょっとコードアルペジオを混ぜたりと考えて作ったソロなので割と自分にとって印象深い曲ですね。 ソロになってからのインストゥルメンタルの曲では「As Close As Possible」という曲。自分の中のベスト5に入るくらい歌っているメロディーを作ることが出来たと思う。”歌っている”と言えばインストですが、実はこの曲には歌詞があるんです。内容は秘密ですけどネ(笑)
Part 4に続く。
※編集部注
公開当初、記事中に好きなフルート奏者として「Jan Akkerman(ex-Focus)」と記載がありましたが「Thijs Van Leer(Focus)」の間違いでした。(記事内は訂正済み)
この場で間違いのお詫びと訂正をさせていただきます。
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